vol.03 鉢植えの管理

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問題 vol.03
鉢植えの管理

柴田忠裕先生から、園芸に関する問題を出題!
問題文が正しいと思えば「⭕」、間違っていると思えば「❌」で解答してください。

第1問

鉢植えの排水改善のため、鉢底にゴロ土を入れる。

残念! 不正解です
正解です!

水から引き揚げたザルは、ザルの網目に表面張力で水が張っている。この水を除去するには重力をかけて手で振り落すか、布や紙を当てて吸い取る以外にない。鉢底も同様で、土の粒同士の孔隙部分に水が張り付いている。ゴロ土用の粒径が大きい土は、孔隙が大きく排水が良いように思えるが、水が張りついている。土の粒径の大小によって若干は保水力に差があるものの、鉢底に敷いたゴロ土の排水効果は大きくない。それより、肥えた土を入れる方が、植物的には生育が促される。

ザルの目に表面張力でついた水
ザルの目に表面張力でついた水
第2問

素焼き鉢は水や空気が出入りし、根の生育に良い。

正解です!

素焼き鉢は鉢面から水が出入りし、空気も流通する。そのため鉢温が上がらず、酸素も入ることから根の生育が良く、夏越しも容易である。一方、プラ鉢は空気も水も通さないため、植物、特に根の生育にとっては好ましくない。だからプラ鉢の場合、根は酸素が入る、培地とプラ鉢の境の隙間を目指し伸びる。物流革命で、重くて割れやすい素焼きからプラ鉢に大変革したことは致し方ないが、ここにきて世界的に石油由来製品の削減が求められており、もう一度素焼き鉢が活躍する時代になるかもしれない。

素焼き鉢栽培のアジサイ
素焼き鉢栽培のアジサイ
残念! 不正解です
第3問

プラ鉢の排水・通気性は、粒径の大きい培地で植えこむ方が良い。

残念! 不正解です
正解です!

鉢土はそれを構成する組成間の孔隙部分に水が張り付き、粒径が異なっても付いている。停滞水があると、酸素が入る孔隙部分が水で埋まるため酸欠になり、根の生育は抑制される。特に苗のうちはより排水を促したい。水は鉢の下層に滞留するため、除去するには化学繊維の紐を鉢底から垂らす。滞留水は紐に引き寄せられ紐の下部に移動し、紐から水がぽたぽたと落下し排水する。植え付け初期等、過湿害が心配な時におすすめである。ただし、排水が良好になると、鉢土が乾燥しやすくなるが、一方、鉢底から垂らした紐は、逆に底面灌水用の紐ともなるため、状況により排水紐となったり給水紐となる。上手に使って生育の安定を図りたい。

紐による排水
紐による排水
第4問

鉢もの生産でネックとなる倒伏や、夏場の生育抑制(夏バテ)は、ポットインポットで解消できる。

正解です!

プラ鉢での栽培が多くなると、排水通気性が劣るほか、鉢内の温度が高まり、生育が抑制される。さらに、倒伏も問題となっている。この両問題を解決する方法がポットインポットである。鉢内の温度をあげないためには、太陽光が当たらない環境を作る必要がある。最も簡単な方法は、鉢を土中に埋めることであるが、それでは根が伸び出し、出荷時の傷みも懸念される。そこで、土との間に緩衝帯を設けるため、同じ大きさか一回り大きい鉢をあらかじめ土に埋め込み、そこに植物が植わった鉢を落とし込む。その結果、太陽光が遮られ、鉢が固定され倒伏も防止できる。鉢内の温度が上がらず、夏季の生育も促進される。

暑がるセイヨウシラカバ・ジャクモンティのポットインポット栽培
暑がるセイヨウシラカバ・ジャクモンティのポットインポット栽培
残念! 不正解です
第5問

鉢周りの環境は夏越し・冬越しに影響する。

正解です!

鉢内の温度は生育に影響をおよぼす。例えば夏季の黒ポリポットの場合、鉢土温度がゆうに40℃を越す。当然生育は抑制され、枯れ込む要因となる。そこで、前出のポットインポット等の対策を施したい。それ以外の高温対策としては、素焼き鉢や不織布ポットによる栽培、栽培場所の遮光、鉢外壁のアルミホイル被覆、黒ポットより白や銀色のポット利用、鉢土表面のマルチング(コルク片等を敷き詰める)などがある。いずれも太陽光の反射や遮蔽効果を利用している。一方、冬季の鉢温も越冬に大きな影響をおよぼす。植物の耐寒性を左右する要因は生育時の温度だが、特に地温の影響が大きい。鉢物の場合、根鉢部分が直接寒風にさらされるため、露地植えに比して根部の温度が下がる。防寒対策は、風除けの設置、ポットインポット、二重鉢、表面のマルチング等寒風を直接当てない細工が効果的である。ただし、この対策は限界値を若干引き下げるものであり、耐寒性の劣る植物を越冬させる効力は小さい。

残念! 不正解です

園芸知識コラム vol.03

先日、ある生産者のもとでフローリストが半年間にわたり研修を積んだ話を聞いた。実際に栽培にもタッチし、その日に活ける切り花や枝ものを自分で切り、アレンジメントを作成する日々を送ったそうであるが、自分で経験したからこそわかる技術や苦労、植物の本当の姿に接し、将来歩をすすめるうえで大変参考になったそうである。自分の経験は最高の勉強であり、得られたものは最大の財産になる。世の中に参考となる書はたくさんあるが、あくまで参考にとどめ、経験を積んで得られた感覚が正解であることを今一度肝に銘じてほしい。

柴田忠裕

出題者:柴田忠裕

千葉県生まれ。新潟大学農学部、同大大学院農学研究科卒業後、現千葉県農林総合研究センター花植木研究室に勤務し、コニファーの栽培技術や屋上緑化素材であるマット植物、植木盆栽類の輸出技術の開発にあたる。平成26年3月に定年退職し、現在は(公社)千葉県園芸協会種苗センターセンター長、花卉懇談会会長を務める。

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