医療と介護の複合施設みゆきの里における「医福食農連携」の実際

日本ガーデンセラピー協会

ガーデンセラピーのかたち

コロナ禍や働き方改革により、ガーデンセラピーの効果は改めて見直されている。
日本ガーデンセラピー協会の理事が、それぞれの分野から見たガーデンセラピーを執筆する。

vol.03
医療と介護の複合施設みゆきの里における「医福食農連携」の実際

富島 三貴

日本ガーデンセラピー協会理事。熊本市南区にて、予防・医療・介護・福祉を一元的に整備した「みゆきの里」(医療法人博光会・社会福祉法人健成会・株式会社健康ファーム)11施設、21事業所を運営。「医食住の輪、人の和で健康生活を支えます」の理念のもと、健康長寿のまちづくりの拠点を目指す。

医療と介護にガーデンセラピーを
みゆきの里の健康づくり

私どもは、11施設21事業所を有する病院と高齢者介護施設のグループです。開設40年経ち、超高齢社会を迎えました。自然災害やコロナ感染症という大変な環境の中、つくづく健康で長生きをすることの重要性と難しさを感じています。創業以来「福祉の原点は在宅にあり」として自宅で家族と共に暮らすことを支援しようと、予防から治療、介護を一貫して取り組んできました。そのためにも「何よりも予防が大事」と唱え、近代西洋医学を基本に、代替・補完医療と言われる東洋医学やアロマセラピーを組み合わせる統合医療を推進しています。ストレス過多の現代、日々の生活にますます全人的な「癒し」が求められています。

私たちの経験からも、予防・健康増進のため、ガーデンセラピーによる環境づくりやセルフケアの術を学ぶことをぜひともおすすめします。

みゆきの里 全景
みゆきの里 全景

農業体験をリハビリに応用
免疫力を高める植物の栽培も

みゆきの里には農業生産法人健康ファームがあります。その活動の一つを「ファームリハビリテーション」と命名し、ハーブ栽培や農業体験をリハビリテーションとして患者さんや入所者の方々に提供しています。

ここでは、土がもたらす効果にも着目しています。五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・臭覚)の刺激による感受性を高める効果や、日光によるビタミンD生成促進による骨強化作用、認知症予防効果、土を踏むことによる電磁波デトックス効果など、入院・入所されている方々の心身のケアや動機づけ、社会復帰などを目指しています。ケア提供者には、体験される方々の声や笑顔が一番の癒やしとなっているようです。

施設敷地隣接の御幸圃場では、エキナセアの栽培を行っています。エキナセアには免疫力を高める効果があり、ヨーロッパなどでは、風邪やインフルエンザの予防にも使われるそうです。満開時には、見た目にも華やかで元気を与えてくれます。収穫したエキナセアは、職員、入居の方々と協働で選別作業を行っており、コミュニケーションの場ともなっています。エキナセアは施設内にも飾られ、安らぎを与えています。

また、みゆきの里内11施設においても敷地のスペースを活かし、さまざまな形でガーデンセラピーを推奨しています。一例ですが、ケアハウスでは、入所している方と職員で野菜と花壇をつくっています。収穫した野菜を食卓で味わうと、会話も弾みます。コロナ禍で外出ができない中、土と触れあい作業をすることで、ストレスが解消されるようです。

ファームガーデンでの、レモングラス株分け作業
ファームガーデンでの、レモングラス株分け作業
健康ファーム職員
健康ファーム職員

職員向けの農園をスタート
健康長寿のまちづくりを目指して

自然療法に基づくセルフケア情報の発信基地として、敷地内にみゆきcollegeを開設。地域の方や職員に向けた、アロマ教室の開催、ハーブガーデンの紹介や、ハーブティーの体験などの提供を始めました。ハーブの定植もアロマ教室講師と行い、座学だけではなく、ハーブ見学や植物や土に触れる体験を交える予定です。このように、圃場やガーデンも教室の一部となっています。

さらに健康経営の一環で、2022年5月から職員の「土に触れたい」という要望に応え、貸農園を開始しました。健康ファームのスタッフが分かりやすく説明しますので、初めての方でも大丈夫です。10月には芋掘り体験を計画中です。

当グループの中核医療機関である御幸病院のリハビリテーション部では、作業療法士が中心となってハーブや野菜の栽培等を通したリハビリを実践しています。2021年度は27名の入院患者さんを対象に、ガーデンへの歩行訓練・花を活用した装飾品作成やしおり作成など、個々人の好みやリハ的な必要度に合った内容を取り入れました。

芝生や不整地、坂道での歩行トレーニング、立ち座りトレーニングを楽しみながら、体幹及び下肢筋力を向上させることや、園芸活動による心身機能の改善、趣味活動の獲得、社会参加への意欲促進、認知機能の活性化、院内にはない自然環境による刺激、自然を眺めながらの言語トレーニング、回想法による自然な会話、野菜の香り、味から唾液を分泌、嚥下機能の向上の促進等々、多岐にわたる効果を期待しています。退院後も自分でできる家庭菜園を続けたいとの言葉と笑顔をいただいたことが、スタッフの励みにもなっており、何よりうれしく感じています。

ガーデンの力は、生活支援や自宅復帰支援の医療・介護サービスを提供する施設にとって、患者・利用者への社会復帰の動機付けになるのではないかと考えています。「医療・福祉・食事・農業」という命と健康を支える活動を通して、「予防」の視点を重視し、より元気と幸せを創造するトータルヘルスサポートに育てたいと考えています。私どもの「ガーデンセラピーのかたち」は、まだまだ未成熟ですが、みゆきの里が目指すのは、健康長寿のまちづくりです。その理念に沿って、「自然を五感で受け止め、健康を育む身近な方法」としてガーデンセラピーを展開していきたいと考えています。

みゆきの里 ハーブガーデンマップ
みゆきの里 ハーブガーデンマップ
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