日本造園組合連合会青年部 【座談会】

造園業の現状と、仕事の地域差

青江 お客さんは予算ありきで庭をつくりますよね。例えば予算が3000〜4000万円あって、そこから土地代、住宅代が優先的に引かれるから、その残りを庭園とか外構工事にする。岡山だと外構の平均は200万〜300万くらいで、庭の面積は60〜65坪くらいです。

齋藤 仙台は予算が110万くらいで、構造物がメインですね。車社会なので、駐車場を広く取りたいっていう要望が多くて、雪も降るから、積雪20cm対応のカーポートが多いです。すると木を植えないので、緑が少ないです。

金城 沖縄は逆にカーポートは少ないです。台風が多いから、ポリカーボネートだと飛ばされて危険なんですよね。鉄骨を立てて、ガルバリウム屋根を張ってます。

下矢 うちは田舎の方なので、大きな家が残っていて、リガーデン的な仕事はまだまだ少ないです。古民家を再生する仕事が多いですね。

金城 庭の地域差は掘り下げるといろいろありそうですね。

齋藤 仙台なので、他の方とは雪と寒さの対策が違うと思います。ただ、仙台は東北の中では雪が少ない地域なので、雪囲いとか雪吊りなどの雪対策は化粧程度です。最近は需要も減っていますね。嗜好品になっている印象です。

瀬沼 東京は「庭はいらない」と言われることが増えています。土地代も上がっているし、相続も大変みたいです。景石や青石を引き上げて、空いたスペースに土間を打つならまだいいけど、駐車場にする場合もあります。代々受け継がれているウメやマツを引き取ってほしいという問い合わせも多いです。ただ、植物を引き取って別のところに植えたケースは1件だけ。育った植物だから、引っ越し先でスペースが取れないんですよ。
 雪吊りは見栄えがいいので何年か前に数件やってたんですが、東京は雪が降らないので、化粧に近いです。準備も含めて二人工、三人工くらいで見積もりを出すと、続かないですね。

藤田 四国は温かい地域ですが、山が急なんです。海から山までの距離が近くて、一番大きい山で2000mくらい。基本的に平地に人が住んでいますが、昔の人は山にも住んでいて、雪吊りをするほどではないですが、山は雪が降ります。平地は温かいので、常緑樹が多いです。

平地が少ない四国の風景

下矢 うちは今週(11月18日時点)から雪吊り作業に入ってて、急ピッチで12月20日までに仕上げています。化粧でする人はほとんどいないですね。レベルの高い管理が求められているけど、それができる職人が減っているので、管理の需要が高いように感じています。

齋藤 東北は仙台と青森でも気候が違うんですよ。以前仕事で青森に行ったんですが、支柱の立て方も違うんです。八掛にしても低いとこから折れるから、高いところでやらないと。そして青森は常緑樹がないみたいですね。宮城あたりを境に、タケもないです。

青江 北海道だと門松のイメージもないですよね。皆さんは門松って作ってますか?

金城 沖縄はマダケを九州から持ってきて加工しています。他の植物は現地調達。タケはリュウキュウチクっていって、小指くらいの太さの在来のタケがあるんですよ。沖縄は竹垣の少ないんですが、リュウキュウダケを編んでつくるチヌブダケという竹垣はあります。台風があるので、ある程度風が入りながらも視線を切る役割です。チヌブダケをつくる講習会もありますよ。

青江 タケもないんですね。ちょっと話が戻るんですが、福井県では雪の前に剪定するんですよね?

下矢 剪定はお盆前7月から今の時期で終わります。12月以降に剪定する文化がなくて、1年間通して基本的にその時期しか剪定はしていません。雪吊り撤去は3月ですね。雪吊りを外した縄で根巻きをしています。SDGsですね。

福井の本格的な雪吊り

齋藤 そういえば、藁から縄を編みますか? 仙台だとうちの世代では縄を編むことがなくなっていて、藁からは難しい。仙台では政宗公の時代にあった「仙台門松」を復活させようっていう地元の動きがあるんです。普通の門松じゃなくて、ナラの木を組んでつくるんですよ。地元の文化を復活させることを目的にしていて、そこで藁を編む必要があるんです。

舌間 福岡は東京と似ていて、土地代と建物にすべてお金をかけて、外構そのものをやらないパターンが増えています。やっても土間コンクリートで、カーポートがあれば十分。緑ばなれが進んでいると感じます。

植物が少ない庭(福岡)

民間の庭に植える樹種

瀬沼 皆さんはどんな樹種を植えてますか?

齋藤 仙台はここ10年くらいでシマトネリコが育つようになったので、注目が集まっています。仙台では冬に葉を落とすんですけど、それでも枯れないので人気です。温暖化で使える樹種は変わってるんですね。

瀬沼 いまは手のかからない木が求められますね。オリーブとかヒメシャラとか。

舌間 オリーブって旺盛に伸びませんか? 樹形が乱れやすいから剪定しづらいですね。

金城 沖縄は亜熱帯だから、植物が育つのは早いです。でも土地がやせているから、土壌改良しても台風が来たら倒れてしまうという問題があるんです。だから結局、在来樹種が良いですね。一般住宅では目新しい樹種を求められるんですが、直射日光とか台風の影響を考えると在来樹種が良い。あと最近は、落ち葉の問題があって、葉っぱの小さい樹木が選ばれています。

 

造園業は庭づくりだけでいいのか?

青江 沖縄では塀は建築屋さんがするんですか?

金城 いまは造園屋はやっていないんですが、これからは必要だと思う。庭工事だったら造園屋や植木屋さんがやるんですけど、カーポートや土間は建築外構と土木外構が混ざっています。あまり利益が出ないので、どこもやりたがらないのが現状です。いまは庭工事の転換期で、狭小住宅の空間づくりに造園の力を生かさないといけないのが、沖縄の現状です。小端積みや版築土塀を作るなど、アイデアを生かしながら他社と違うことをして、仕事を増やす必要があります。
 沖縄は亜熱帯気候で一年中植物は生育旺盛だし、除草・草刈り・伐採の需要や、リゾート、ゴルフ場の仕事があるから今は庭の仕事が多いですが、いずれは外構が主力になると考えていかないといけないです。

沖縄の庭

瀬沼 最近東京から地方に移住する人が多いんですけど、行った先で庭らしい庭は作っていないんですよね。そもそも敷地内にある程度の自然があって、そこにわざわざ作りものっぽい石積みなんかはやりたがらないみたいです。

舌間 とはいえ、庭づくり一本で成り立っている人はいますよね。山口県のとある造園屋さんは民間の庭だけで2年待ちとか。技術が突き抜けた人のところには「その人に庭をつくってほしい」という形で依頼がありますよね。そして、営業スタイルも全然違う。

下矢 ただ、庭に興味がある人は減っているから、みんながその造園屋さんと同じターゲットに絞って勝負するのは違うんじゃないかな。視野を広げれば、環境や自然の分野はいまが追い風ですから、企業にアピールできればいいんですが。

齋藤 うちはウェブサイトを見た若い人が来てくれます。色んなところに看板を出していると、若い人の中にも興味がある人はいると分かります。ショウガーデンでも声がかかるので、積極的にアピールしないといけないですね。

青江 うちはハウスメーカーから来た営業の人がいて、僕たちとは目線が違います。家の外構工事では、お客さんは「外からきれいに見せたい」と思っている。だから斬新なものと普通のデザインを提案しています。ただ、一番重要なのは、仕上がりを次の人に紹介してくれるかどうか。

下矢 うちでお付き合いがあるハウスメーカーさんは、逆の考えですね。住宅はだいたい似てきたから、外構で勝負したいと考えているみたいです。数十万円の植栽が入るときれいに見えることをアピールして、家の価値を上げています。

金城 「作庭」で紹介した事例(グリーン情報2022年1月号)は、不動産屋さんから直接依頼をもらった案件です。そこも「植栽で変わる」と信頼して任せてくれました。その施主さんも2022年11月に発行されたホテル関係の雑誌の床面積の売り上げの特集で一位取ってました。緑は集客につながると感じますね。

齋藤 緑を大事にする会社って生き残っているように見えますよね。

 

地産地消がユーザーフレンドリー

瀬沼 いまは日本庭園より、アウトドアリビングの延長線上が求められていますよね。アメリカっぽいというか。

齋藤 困るのがね、仙台なのに南国の庭が欲しいと言われるんですよ。

 言われる!

齋藤 これ難しいんですよね。南国の植物を植えても育たないので、ソテツとシュロとかを植えています。そういう植栽に特化した会社もあるんですけど、ショールームを見ていると1年くらいで枯れています。沖縄の金城部長はクロマツ、アカマツがないのに日本庭園が欲しいって言われて、代わりにリュウキュウマツを使っていたんですよね。

金城 昔は京都風の石組みをして、四国の青石とかを使っていたみたいですけど、結局見栄になるんですよ。地元は琉球石灰岩と在来樹木で組み立てた方が長持ちするし、地域の風土に合う。版築土塀にしても、地域の土で作れるじゃないですか。目隠しにも使えるし、腰掛にも使える。こういう全国の技術は共有して、地域の素材で再現することがコストダウンになると思うんです。

舌間 庭づくりはもともと地産地消。それが物流が発達して、いろんなジャンルが生まれて、それが最終的に戻ってきている印象ですね。

地域の植物を使ったショウガーデン(宮城県)

金城 戻さざるを得ないんですよね。いまは省スペース・省管理、ローコストで、ロックガーデンとかドライガーデンが流行っていますが、個人邸ではいまいちというか…。

瀬沼 あれは竣工した時がゴールです。今後どれくらい植物が伸びるとか、トゲが危ないとかはあんまり考えていない。店舗なら見栄え重視でいいけれど、アウトドアリビングガーデンの延長線と考えたときに、本当にアウトドアできるのかは疑問です。

舌間 どこにどう取り入れるかが大切ですよね。造園屋がお客さんに短所を伝えられていないから、違和感のある庭ができてしまっているのが問題なんじゃないでしょうか。

瀬沼 ドライガーデンに限らず、施主さんはできた時の見栄えを気にしますもんね。10年後20年後って考えたときに、これは幹回りがこれくらい大きくなって、根張りはこうなるから…っていう話はあまり伝えられてない。

青江 住宅設計の人は全体で設計してないように感じます。テラスをもう20cm入れておけば既製品でコストの低いデッキが入るのに、とりあえず1mだけ空けている。こういうことは技術力を付けないと話を聞いてもらえないと思っていて、そこが造園屋の課題だと思います。

齋藤 建設業界って、100%の状態で渡すじゃないですか。でも造園は「引き渡した時より10年後の方が良くなる」と考えて引き渡す。店舗でもないのに完成形を求める人には、「10年後20年後を見て植えた方が良い」と伝えています。

瀬沼 施主さんもそうですけど、関係する事業の人にも知ってもらいたいですね。

青江 株立ちだと、大きくなったら太いのを切って、他を伸ばして…と繰り返しを提案できる樹種を選ぶように工夫しています。

株立ちのアオダモを植樹した例(岡山県)

金城 ヤシ類って生長点が1個しかないから成長が止めきれないんですけど、生長点が何個かあって株立ちになるのがアレカヤシ。狭小住宅ではないけど、民間の庭には入れています。幹はマダケくらいの太さで、見栄えはしないから使っていなかったんですが、扱いやすいのでいまは好んで使っています。

瀬沼 ヤシみたいに植栽を避けてる樹種はありますか? シュロは切るとか…。いまどきサクラは植えないですもんね。

齋藤 サクラは植えないようにしています。葉も毛虫も多いし、根張りで道路とかやっちゃう。サクラの根本は植物が育ちにくいですしね。

青江 役場の人が一番に樹種を考えるのは、地区で育つ木。だから公共工事はやりやすいです。

舌間 うちの市ではネムノキが植えてあるんですよ。公共工事に使われることが少ない樹種。むしろ公共の場には合わないのでは? と個人的には思います。誰が決めたのか不思議。

青江 街路樹を見るとその地区の木がわかるよね。

齋藤 仙台はケヤキですね。狭い民家でケヤキを植えてくれと言われて、止めています。団地の庭にケヤキが植えられていることもあって、2、30年経ってると思うんですけど、家より大きくなっています。

瀬沼 さっき仙台で話に上がりましたが、東京ではシマトネリコは絶対にすすめないです。成長しすぎる。

 

まとめ

瀬沼 まとめると、いまの外構工事は150万〜300万円くらいで、その内植栽は50万円くらい。課題は大きく3つで、1つは、簡単な植栽程度の庭が一般的になりつつあり、土木屋さんとの差別化ができないこと。2つ、庭自体は減っているが、若い人の需要は一定数あるので、十分にアピールしないといけない。3つ、見栄えの良い庭をローコストで作るためにどうするべきか。これは地産地消の庭づくりが差別化につながる、という意見でまとまりましたね。

日比谷公園のガーデンショーで瀬沼さんが手がけた庭

金城 庭づくりが減っている中でも、一流の技術を求める人はいるから、常に技術を磨く必要がありますね。

青江 全国都市緑化フェアなどでニーズが何かを把握して、庭づくりをすべきですね。そこが難しいんですけれども。

金城 500万円の庭を年間1、2本やるよりは、一般的な50〜60坪の住宅で20〜30万円の仕事は需要が高いと思う。そういう細かい仕事を手が空いている時期に取り入れる、プランニング能力も必要ですよね。

齋藤 コロナ禍になって家で過ごす時間が多くなったので、庭や家で楽しめるスペースがほしいと言われる。タカショーさんの「5thROOM」みたいに、庭だけではなくBBQスペースがほしいっていう二—ズがあると思います。

金城 コロナ禍が落ち着いたらまた変わっていくから、その先も追わないといけないですね。

青江 「古民家の再利用」もキーワードですよ。国の補助金で古民家が改修・再利用されているいまがチャンスだと思っています。古民家なら庭園があるから、造園屋にとってはチャンスだと思う。国の制度も勉強して、こういうチャンスを握れるかも重要です。

金城 家と庭で「家庭」だから、建築のことも勉強する必要がありますよね。建物の中から見た庭、道路から見た庭とか、多方面から見た庭づくりをしないといけない時代かと思います。…そういえば、皆さん草花は得意ですか? 僕は苦手で。

青江 女性社員がいる事業所は植栽がきれい。ああいう目線が事業所に一人でもいると違いますね。

金城 会社もそう。うちの会社の表も母が植栽をしているからきれいです。女性目線というのかな。業界全体で女性が進出しやすい環境づくりをして、植栽に活気がほしいところです。

瀬沼 草花の植栽は女性のほうが上手い、という言説もよく見聞きしますが、性差で決めつけてしまうのではなく、われわれも学んでいきたいですね。男性だから、女性だからというのは時代性に合わない部分かなと。先日携わった日比谷公園のガーデンショー出展時でも、石積みや竹垣はよく思案しながら作り込んでいるのに、草花となると考えなしに植えている部分が見受けられたので、たまらず全て植え直すことがありました。もちろん向き不向きは各々あるので、女性が進出しやすい環境づくりには僕も賛成です。

舌間 確かに、勉強したことがない、教えられたことがないってので苦手意識があるのかな。それも課題ですね。年間3回は植えるから、花だけでもサイクルを考えると悪くないですよ。毎年植え替えるから、やり方次第で伸びると思います。宿根草メインで、手前に一年草をとか。剪定ついでに作業する提案はできるかな。

瀬沼 花が咲いているタイミングで、ハーバリウムにしてお客さんにあげるとかもしている。ドライにしてとか

金城 ニーズを見極めて勉強し続ける必要がありますね。

 

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